tech venture business » Archive of '9月, 2007'

起業中毒或いはワクワクの追求

どうも。今日は何度も起業するシリアルアントレプレナーの話です。

多くの人は基本的にあくせく働くことが好きではなく、一生楽に暮らせるお金があれば早期にリタイアして悠々自適にしたいと思ったりするので、一度起業して何らかのexitをして大金を手に入れても何度も繰り返し起業する、という精進の道を歩むシリアルアントレプレナーは不可解な人々と思われることが多々あります。

一度経験すると次からは楽になるというのは良くあることですが、起業についてもそれは当然当てはまり、特に様々な手続きに関する知識、互いに信用出来るチーム、顧客や取引先の人脈、良い関係を築いた投資家等が既にいることは、2回目3回目の起業をはるかに容易にします。その点から言えば、何かを創り上げて売って、また新たなアイディアで起業するというのはある意味理に適っているのですが、多くの人にとっては一回の起業さえもハードルがかなり高いために、「なんでまたそんな大変なことを」と思う人が多いわけです。ゆえに、そういう行動を繰り返すシリアルアントレプレナーはある意味違う人種なのではないかという憶測もあって、いわば人類学的な研究もなされているようです。

この件について先月のWashington PostにThe Secrets of Serial Successという記事がありました。これによると、シリアルアントレプレナー全般に当てはまる共通の資質があるわけではなく、色々な条件や状況が折り重なっていて動機や経緯も人それぞれのようですが、強いて言えば、シリアルアントレプレナーと呼ばれる人は、リスク、イノベーション、達成に対する欲求が高い傾向にあるということのようです。そして失敗に対する恐れが少なく、失敗しても立ち直る力が強いという傾向があるとも。まあ、よく言われることなので驚きはないですよね。

それよりも、一番根本にあるのではないかと思うのは、次の言葉。

“I really believe that some people are kind of entrepreneurial adrenaline freaks,” says Wayne Stewart, a management professor at Clemson University in Clemson, S.C. “They really get their kicks by starting businesses.”

つまり、起業をすることそのものとか、ビジネスを立ち上げることとか、何らかのイノベーションをする等ということでハイになる人々だということです。

何かに情熱を抱き、辛いことはありながらも充実した密な時間を過ごすと、それが終わったときにかなりの喪失感を感じることってありますよね。起業についても同様で、手にした大金でリタイアして飛行機の操縦を学んだりなどのエキゾチックな趣味をしてみるものの、退屈してしまって欝気味になっている人の話は思いの他多いものです。

その喪失感にどのように対処するかは人それぞれな訳ですが、仕事をすること、しかも起業家として何かを創り出す事によって活き活きとするということはもちろんありで、そういう新たなワクワクを追い求め続けるのがシリアルアントレプレナーなのではないかと思います。1度成功しても所詮ビギナーズラックだったと言われかねないので、実力を証明するためにもう一度起業するとか、次から次へとアイディアが湧き出て形にしないと気がすまないという人ももちろんいるとは思うのですが、それよりも何よりも、最初に経験したワクワクをもう一度得たくて、起業する人が多いのではないかと思うのです。

このワクワクし続けるということ、かなり難しいですよね。学生の頃、私はとりつかれたように旅ばかりしていたのですが、休学して1年近く旅を続けると、そろそろ一所に落ち着きたい=家に帰りたいと思うようになり、その一方でそんな退屈に見える日々にどのように戻ることができるのかと考えることがありました。その時、様々な社会経験を積んだ友人に”There is no party that never ends.”と諭されたことを今でも記憶しています。終わらないパーティーはないのだから、その余韻にしがみつかずに次の楽しみを探さなければいけないよ、という意味ですが、これは本当だなと思うことが往々にしてあります。なかなか実践は出来ていないのですが。(これは諺かもしれません。こういう諸行無常な発想はおそらく中国かな?)

幸せの形にはもちろん色々あるのですが、退屈とか停滞を幸せの対極と捉えて、常に新しいワクワクを追い求めるというのもありかと思ったりします。こういうことに貪欲だとパワーもいるし、家族などの周りの人は振り回されて大変かもしれませんけどね。まあ、極端な行動でなくても日々の小さなことにワクワクできる何かを見出すというのも良いかと思いますが。

そんなわけで、ちと取り留めないですが。ワクワクの追求としてプロデューサー的な生き方も良いかと。
今日はこの辺で。

グーグルもVCに?

どうも。しばらく更新できず、すみませんでした。数年ぶりの夏の東京を満喫してきました。当地で会って頂いた方々、有難うございました。今後とも宜しくお願い致します。

さて、今日はCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の話を軽く。しばらく前に、もしかしたらグーグルが今後もっとインキュベーターっぽいことするんじゃないか、と書きましたが、ホントにやりましたね。BusinessWeekの記事によると、一口$500K程の資金をCVC的な形で投資しているそうです。目的としては、買収候補の青田買い、そしてインドや中国など新興市場へのリーチを広げるためのようです。

By staking startups, Google hopes to avoid paying the higher prices companies can fetch once they take funding from traditional VCs. It’s possible that some of its investments are conditioned on Google having first-acquisition rights should a target opt to sell, some VCs speculate. Google didn’t respond to calls requesting comment.

VCから投資を受けたベンチャーは買収の際に割高になるので、早いうちから入り込むとか、投資の条件として以前に触れた、First Right of Refusal とかFirst Right of Offerを課している場合もあるとか言われていますが、実際はどうでしょうね。私は、そういう点よりもむしろ、この記事で出ているようにインドのファンドに投資する事などを通じて新興国へのリーチを広げるための意味合いが大きかったり、先日のガジェットのように、初期の段階からgoogleの技術にピッタリ沿った形で見込みのあるプロダクトが開発されるように仕向ける、という意味合いが大きい気がします。ベンチャー企業をいかに安く買収するかということはあんまり頭にないと思うのですが、どうでしょう。

近頃CVCの試みは全体としてかなり復活しているようです。今年前半のCVCによる投資は2001年以降で最高水準に達しており、390社に対して総額$1.3 billionだそうです。この記事ではCVCが復活していることの理由として、テクノロジー企業のR&D支出が増加していること、中国・インド・ロシア等の前途有望なベンチャーを見出す必要があること、そして株主側が長期的な価値を創造するために、ベンチャー投資にありがちな四半期ごとの浮き沈みに対して寛容になってきていること、を挙げています。

以前も触れましたが、CVCといっても、各社目的や方針がかなり異なりますので、一概には言えないと思いますが、こういう投資の波は周期的にやってくるものかもしれませんね。CVCの中でも大規模なインテルやモトローラ等の各社の動向について興味がある方はこちらをどうぞ。CVCがそもそもどんなものかに興味がある方は、拙著のこちらをどうぞ。

さて、このグーグルの動きに対してVCはどうかというと、金余りの中で益々投資する先が限られて大変という危機感をもたれている方もいるようです。どの分野でもグーグルが潜在的に競合となる可能性があると恐怖感を抱く場合があるようですが、この投資の件に関しては、グーグルも他のCVCと変わらず、通常のVCとはモデルが異なるので、心配するほどのことではないと私は思います。

それよりもむしろ、早くからグーグルの投資を受けることで囲い込まれた形になって、そのままグーグルに安く買収されるか、グーグルが買収への興味を示さなかった場合に行き先がなくなる、という状況に陥るベンチャー企業が出てくる可能性があることのほうが心配です。自社の売却をする際には株主に対するリターンという金銭的なことだけでなく、自社の成長の第二幕として最適な相手を探すことが重要ですが、納得の行く結果を得るには、複数の企業と同時に話し合いをすることが極めて重要です。交渉において、はじめから立場に差のあるもの同士が一対一で話し合うのは、どうあがいても立場の弱い側(この場合ベンチャー企業)にとって不利なのです。

資金は同じ額面でもそれぞれコストが異なります。投資をうける場合には色々な意味でのコストを熟考してからにしましょうね。

今日はこんなとこで。ではまた。