tech venture business » Archive of '9月, 2006'

VCから資金調達すべきかすべきでないか、それが問題だ

昨日、近場で興味深いパネルディスカッションがあったので参加してきました。テーマは”To VC or not to VC”、つまり起業家が事業を立上げる或いは成長させる課程においてVCからの投資を受けるべきかどうか、というもの。

シリコンバレーではこれまで典型的なスタートアップの道筋として、アイディアが生まれたら少数の設立メンバーをもって会社を立上げ、ビジネスプランを仕上げてVC巡りをして投資を募る、というのがいわゆる定石でした。それでも世界中から優秀な人々が集まり、スタートアップ企業が山のようにあるこの地域では、VCから投資を受けるのはかなり大変で、過去の実績があり且つコネがあるCEOのみが投資を受ける事ができるという環境が暫く続いていました。まあ、買い手市場だったわけですね。ところが最近このバランスにちょっと変化がおきている、というのです。

昨今Web2.0などインターネットブームもありVCによる投資水準はバブル崩壊後と比べるとかなり回復はしています。実際、VCに受託されているファンドの合計額は90年代後半バブル時の額を上回っているそうなのです。つまり、投資にまわすべき資金は豊富にある状況です。

それに対して、VCの投資を受けずにいわば清貧なかたちで事業を運営する人たちが増えているというのです。

その理由としては、                          

ご存知の通り、コンピューターやネットワークが安価になりインターネットを通じて世界中へのチャネルさえも即時に開けるようになった昨今、特にソフトウェアや消費者向けインターネット技術を扱うならば、製品を開発し展開するのは本当に安くなりました。そのため、起業家側に資金調達の必要性があまりないというのが一点。

そして、企業を立ち上げてIPOなりM&Aなりを経て、また新たな企業を立ち上げるという、いわゆるserial entrepreneurの集積が進み、過去のそういったexitから得た資金力があるためポケットマネーのみでいけてしまう例が多いという点。

それから、起業に関する知識や経験が蓄積・共有され、起業家が自社のOwnershipについてより戦略的になっているという点があげられます。

この需給バランスの変化によって何がおこっているかというと、VCの側が有り余っている資金の投入先を自らハントしに行く事が増えており(最近のカンファレンスでは起業家の数よりもVCの数が多いことがよくあるみたいです)、実際投資をするにしても、起業家にとってより有利な条件であることが多くなっているのです。つまり売り手市場になっているわけです。

この流れは起業家にとっては大歓迎ですね。

通常、VCから資金を調達する際には、自社の株式との交換になります。企業が成長する課程で数回この資金調達をするのが普通ですが、その都度の価格設定と条件によっては、設立メンバーや社員が知らぬ間に少数株主になり自社のコントロールを失うという事がよくあります。もし、自社のコントロールを第一義に考えるならば、自社株はなるべく売らないほうがいいので、外部からの資金調達は可能な範囲避けるべきです。

一方、VCが提供するのは実は資金だけではありません。VCはいくつものスタートアップを育ててきたわけで、その経験が蓄積されており、会社経営の荒波を乗り越えるのに非常に力強い助けになります。また、自分では持っていない人脈を提供してくれることも往々にしてありますし、人材の補充や弁護士の紹介など会社経営に必要なインフラもサポートしてくれます。自分にはそういう助けが必要だ、という場合には、アドバイザー料としてのプレミアムをどのくらいと考えるかをシビアに検討し、投資の条件を交渉した上で資金調達をするのも良いと思います。但し、ひとことVCといっても、会社によってフォーカスしている業種や事業ステージはかなり異なりますし(セールスピッチには気をつけて!)、同じ会社でもどのパートナーかによって自分の期待しているサポートがどの程度得られるかは異なりますので、選択はくれぐれも慎重にすべきです。

業界・業態、スピード感、或いは自社のカルチャーによって資金の必要額は大幅に異なりますし、またVCが提供するようなメンターの必要性も異なります。重要なのは自社のそういったニーズに対して、どのようなソースからどのようなペース・条件で調達するのがベストか幅広いオプションから選択する事です。今はそれができる大変良い時期なのです。

どんな事に関してもそうですが、定石をたどる前に一歩引いて、本当に必要なのは何か、それを実現する方法にはどのようなものがあるのかを真剣に検討することは、その後に続く長い道のりを後悔なく進むためには極めて重要だと思います。根本的ですが、昨日のイベントはこんなことを考える良いきっかけになりました。

それにしても、そんなに資金が余っているということは、第二のバブルは避けられないのかな…?
流行の業種だけでなく幅広い視点で本当に良いものを創造している企業に投資が回れば良いのですけどね。

ドットコム時代と今のWeb2.0の違いとは?

最近、Web2.0といった、次世代のインターネットの取り組みが賑わっていますね。日本ではIT関係者以外でどれくらい社会にインパクトを及ぼしているか知らないのですが(少なくともうちの家族のようなITに疎い部類には伝わってないようです)、私が住んでいるここサンフランシスコ・シリコンバレー辺りでは、結構な広がりを見せているようです。Web2.0企業がかなりの数生まれてきていて、VCの投資もかなり積極的に行われていて、数年前のドットコム時代を彷彿させるノリを感じます。今の環境がバブルかどうかは様々な議論がなされていて(例えばあるVCの意見としてこれ)意見が分かれるところですが、個人的にはとても興味深く何というかワクワクしています。

というのも、これまでことごとくバブル的なものに縁がなかったのです。日本での、女子大生ブーム(皆さん覚えてますか?)の際には若すぎて、女子高生ブーム(こんなのもありましたよね?)には年寄りすぎて、バブルを謳歌するには若干わかくて就職する際には氷河期で。アメリカを中心としたドットコムブームの際には日本にいて大企業中心の仕事をしていたためあんまり感覚がなく、2000年にはアメリカ中西部で働いていたためちょっとその片鱗には触れましたが基本的にはバブルは弾けていて…と、まあ、見事にかすってきたわけです。

そんな訳でひねくれ者になる土壌はしっかりとあって、バブル的なものには懐疑的なのですが、今回はある程度渦中にいるので、ぜひ客観的に動きは把握していきたいなと思ってます。

前置きが長くなりました。個々のWeb2.0企業については日本語でもかなりのニュースやブログが出回っているようですので、ここでは個々の企業ではなく、構造に関する話を書いてみます。

そこで、皆さん、ドットコムブームと昨今のWeb2.0ブームの一番の違いは何だと思いますか?

私はゴールイメージだと思っています。前者ではIPOが多くのスタートアップ企業やVCにとって目指すところであったのに比べて、後者ではIPOの話はあんまり耳にしないかと思います。Grouperの買収以後”YouTubeがいくらで買収されるか?”といったような憶測やニュースが毎日のように伝えられています。これは関係者の現実的なExitの期待がIPOではなくM&Aにあるということを示してると思われます。(少なくともUSでの話ですが)

理由は”さめたIPO市場”を含め幾つかあると思いますが、前回のブームとそれ以後に得た経験を元に、以下のような認識の変化が起きたという事に主な要因があると考えられます。

1) 市場が通常である場合、IPOへたどり着くには様々な側面で都度正しい決断をしていかねばならずリスクはかなり高い。 M&Aの方がliquidityへの時間も短くリスクも小さい。
2)そもそもIPOは始まりであって終わりではない。IPO後の道のりは更に険しい。
3)ビジネスモデルやテクノロジーによっては一企業としてグローバル社会の中で発展していくほどの広がりのないもがある。むしろ既存の製品に対する付加価値やフィーチャーであったりして、既存企業と統合することがベストな選択である場合が往々にしてある。
4)新たなテクノロジーが生まれるスピードが速く、既存企業が自社の競合優位に必要な技術を社内のR&Dだけで賄うのは非現実的で、買収を活用することも有用なオプションである。

それぞれの点については後日また詳細を述べたいと思いますが、全体としてこの変化は企業家にとっても投資家にとってもそして既存企業にとってもより現実的なアプローチだと言えます。IPOがありえない訳ではもちろんないですが、シビアな取捨選択がなされることは必至です。

Web2.0企業に関してこれからいくつのM&Aがおこるか予想はできませんが、おそらく、莫大で良質な顧客層をもつ企業、或いは既存の企業が現在保持していなく且つ保持すればかなりの戦略的アドバンテージを得ることができるようなコアテクノロジーを開発している企業は良いM&A ターゲットになるでしょうし、そういったものを持たない企業は細々とやっていくか、何れ淘汰されていくのではないかと思います。

日本ではどうなんでしょう?

今回はまずWeb2.0を基点としてスタートアップを取り巻く環境を大まかに書いてみましたが、今後より深く掘り下げてお伝えしようと思います。