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VCがエンジェルになる?

先日、以前の投稿に関して(YouTubeから考えるVCの構造変化)新たな動きがありましたのでお伝えしたいと思います。

老舗のVCであるCharles River VenturesがQuickStartというプロジェクトを立ち上げ、早期のベンチャーに対し小額ローン($250K以下)の形でシード投資を実施すると発表したのです。これまでもケースバイケースではこういった取り計らいはあったみたいですが、著名なVCが公にこの様な仕組みを打ち出すということは初めてで波紋を呼んでいます。この動きはエンジェルとの競合を意味しています。

VCのビジネスといえば将来性のあるベンチャーを見出し、通常はかなりの株式を取得しそのベンチャーの役員となり、資金と人力を投下してベンチャーを育てあげ、IPOかM&Aによって多額のリターンを得る、というものです。それがこのプロジェクトではシード投資というこれまで一線を画してきたステージに踏み込み(通常VCが”early stage”投資という場合はSeries Aを意味しています)、株式による経営権の取得ではなくローン(convertible noteとしてですが)をするというのです。

その背後には何があるのか。
特にソフトウェアやコンシューマーインターネット系で見られるように、とにかくベンチャー起業が非常に安くなったということ。9月の投稿(VCから資金調達すべきかすべきでないか、それが問題だ)でも書いたように、VCを迂回する起業家も続々と現れており(先日お伝えしたredditもその好例です)、VCとしてはそのトレンドに対して何か策を講じる必要がありその一つがこの取り組みなのでしょう。

このQuickStartの仕組みについてCRVのプレスリリースでは以下のように述べています。

By offering up to $250,000 in the form on a loan (also known as a “convertible note”), CRV is providing entrepreneurs with the capital needed to fuel their ideas with no equity dilution. Because the seed funding does not involve equity, no public filing is required. As a result, entrepreneurs can stay in stealth mode during their seed phase, which is often important in maintaining competitive advantage. To eliminate personal liability for the entrepreneurs, CRV makes the loan to a corporation formed around the entrepreneur. If a corporate entity does not already exist, CRV will help the entrepreneur to establish one. CRV will then work with the company in an observer capacity on its board and help put together a first formal round of equity financing when appropriate. The ultimate intention for CRV QuickStart loans is to convert CRV’s debt into equity should the company move forward with a Series A round.

起業家にとっての利点は株式譲渡を含まないので所有権が保て、投資を受けたということを公開しなくてもよく、ValuationはSeries Aを行う際に交渉できるということ。そのValuationや書類提出の諸々が省けるため、資金調達スピードが速まるということのようです。

ではVCにとっての利点はというと、$10Mを投資できる1社がない代わりに可能性のありそうな40社に資金を巻いて、どれが上手くいきそうか様子を見ることができ、その上手くいきそうなベンチャーへのステークを誰よりも早く取れるということ。つまりお金を使うことができ(初期のリターンは利子率のみのポテンヒットですが)、青田買いもできるということ。

これは上手くいけばなかなか賢い仕組みかもしれませんね。
$30Mの小切手を書いてくれる人は少数だけれども、$100Kの小切手を書いてくれる人はエンジェルも含め結構います。起業家にとっては選択肢が一つ増えるということで良いこと思われます。但し、青田買い、つまり囲い込みの要素が強いことを念頭にした上で考慮すべきです。また数多くの小額ローンの一つとなるゆえに、通常エンジェルやVCに期待するサポートは得られないと思ったほうが良いでしょう。

VCとしては発想は非常に面白いものだと思いますが、本来のビジネスと相当異なるものですので、こういった「数をこなす」というプロセスをサポートできる仕組みがあるのか、というところが微妙ですし、VCに求められるハイリターンが果たして結果として実現できるのかというのも誰にも分からないところでしょう。

起業家の興味もたくさん集めているようなので、今後どうなるか楽しみですね。これからもこのような新しいVCの取り組みが各種発表されることが予想されます。VC2.0とかだけは言わないで欲しいな…と願っています。

今週はこんなとこで。ではまた来週。

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