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Earn-out (アーン・アウト)について – Part 2

どうも。引き続きアーン・アウトの話です。売り手の立場(特にベンチャー企業の場合)としてはアーン・アウトは避けるべきだと私は考えますが、ここでは、どうしてもという場合に、その受け取り確度をあげる方法を考えてみたいと思います。

まずは買収後にどういうことが起こりえるかという例をいくつかあげて見ますね。

1.買収元の親会社の価格設定基準を子会社となったベンチャー企業の製品に適用することになりマージンが変わる
2.親会社から更に人員が送り込まれたり、親会社と同等レベルに給与や福利厚生を調整したため、コスト構造が大幅に変わる
3.親会社がそのブランドやカラーを子会社のウェブサービスにおいて前面に押し出したため、多数の既存ユーザーが離れてしまう
4.それまでの知見・経験や合併後の働きぶりが買われ、元CEOやキーメンバーが親会社の新事業担当として抜擢される
5.全社コスト削減の一環で予算が激減する
6.買収を牽引したマネジメントが一掃され、当該事業部の全社におけるプライオリティが大幅に変わる
7.世の景気が一変してしまう

などなど、他にも色々と出てくるかとは思いますが、とにかく「その後」を100%コントロールすることはまずムリだという現実があります。もちろん買収した側もその買収が成功することを望みますが、そのための施策と被買収企業に課されたアーン・アウトの条件が噛み合うとは限らないわけです。そこを考慮したうえで、なるべく売り手としてコントロール可能なことに条件を設定するように交渉することが必要になるでしょう。

まずは景気や親会社の方向転換などコントロールが全くできないような環境変化の影響を最小限にするために、アーン・アウトの評価期間をできるだけ短くすること。

それから、条件をできるだけシンプル且つ買収の理由と沿うようにすること。例えば売上げが買収先にとって魅力的な場合では、コストなどの構造が変わることを考慮し、利益よりは売上の額や成長率を条件に用いる等。同様に、売上げが元より殆どないようなアーリーステージのベンチャーで技術等の戦略的な要因に基づいた買収の場合、売上げを条件にするのは自爆的ですのでご注意を。

他には例えば、その事業に対する一定のリソースを確保すること自体や、確保出来ない場合の基準値の調整などを契約に盛り込むなど、ダメージコントロールを予め入れておくことでしょうか。

お気づきとは思いますが、これらのことをきちんとしようとすると相当複雑です。交渉期間は長引きますし弁護士費用はかさみますし、物別れしてしまうこともあります。ベンチャー企業のM&Aではベンチャーに付随するリスクを回避するためにアーン・アウトによる買収が多いという認識もあるようですが、特に小型のベンチャーに関してはそんなことはないと思います。

というのも、買収の理由が自社の既存製品の競争力を増すための技術であったりと、売上げなどの数で計ることが意味を成さない場合が多いですし、そもそも予測の難しさを認めているわけですから売り手にだけアカウンタビリティを押し付けるというのはバランスが悪いですよね。更に、買収額自体が少ないですから、双方これに多大な弁護士費用、管理コストをかけるの見合わないという理由もあります。

小規模のM&Aは内容が公表されないことが多いので正確にはつかめませんが、技術ベンチャーの売却をアドバイスする身としては守りどころなので、そんな感覚です。もし多いとしたら、自力で交渉する起業家が足元を見られている可能性が高いような気がします。

そんな訳で、細かい話になってしまいましたが、皆さまぜひ慎重に。この経済環境化でも納得のいく取引ができると良いですね。

ではまた。

2 comments to “Earn-out (アーン・アウト)について – Part 2”

  1. なかなか示唆に富む話。。。確かにEarn-Outを入れると後々複雑になるばかりですもんね。私も経験があります。部分買収時に、先行き2年程度の事業計画を売り手と買い手で合意し、それに合わせて残りの持分買取金額をEarn-Out方式にしたけど、結局、コスト削減、市況の変化インパクト大、製品開発スケジュール遅れ、とコントロールできないことばかりがおき、挙句には当該マネジメントも転職。。。
    ちなみに、話は変わりますが、ベンチャー企業の売却・買収に際してのescrowの扱い、とか、気をつけること(売り手側、買い手側)とか、また、今のご時世、valuationで何か目立った変化はないでしょうか? D
     

  2. D様
    コメントありがとうございます。後々まで引きずる取引というのは、買い手売り手双方にとって複雑ですよね。その複雑さが本当に見合うかどうかというのは重要な考慮点だと思います。

    Escrowは業種によって割合は異なると思いますが、多少はあるのが通常です。ただ、こちらもシンプルするのがベストです。リリースのトリガーになる事項を細々と決めるのはかなり大変ですし、場合によっては名を変えたearn-outになってしまうこともあります。この辺についてはまた改めてエントリーを書きますね。

    Valuationは、複数の買い手がない限り、売り手にとっては厳しいと言うしかないですね。売り手の数も多いですし、売り手側の資金調達が難しいのが見えてますから…。 買う側にとっては良い時期ですが。

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