tech venture business » Page 'VCから資金調達すべきかすべきでないか、それが問題だ '

VCから資金調達すべきかすべきでないか、それが問題だ

昨日、近場で興味深いパネルディスカッションがあったので参加してきました。テーマは”To VC or not to VC”、つまり起業家が事業を立上げる或いは成長させる課程においてVCからの投資を受けるべきかどうか、というもの。

シリコンバレーではこれまで典型的なスタートアップの道筋として、アイディアが生まれたら少数の設立メンバーをもって会社を立上げ、ビジネスプランを仕上げてVC巡りをして投資を募る、というのがいわゆる定石でした。それでも世界中から優秀な人々が集まり、スタートアップ企業が山のようにあるこの地域では、VCから投資を受けるのはかなり大変で、過去の実績があり且つコネがあるCEOのみが投資を受ける事ができるという環境が暫く続いていました。まあ、買い手市場だったわけですね。ところが最近このバランスにちょっと変化がおきている、というのです。

昨今Web2.0などインターネットブームもありVCによる投資水準はバブル崩壊後と比べるとかなり回復はしています。実際、VCに受託されているファンドの合計額は90年代後半バブル時の額を上回っているそうなのです。つまり、投資にまわすべき資金は豊富にある状況です。

それに対して、VCの投資を受けずにいわば清貧なかたちで事業を運営する人たちが増えているというのです。

その理由としては、                          

ご存知の通り、コンピューターやネットワークが安価になりインターネットを通じて世界中へのチャネルさえも即時に開けるようになった昨今、特にソフトウェアや消費者向けインターネット技術を扱うならば、製品を開発し展開するのは本当に安くなりました。そのため、起業家側に資金調達の必要性があまりないというのが一点。

そして、企業を立ち上げてIPOなりM&Aなりを経て、また新たな企業を立ち上げるという、いわゆるserial entrepreneurの集積が進み、過去のそういったexitから得た資金力があるためポケットマネーのみでいけてしまう例が多いという点。

それから、起業に関する知識や経験が蓄積・共有され、起業家が自社のOwnershipについてより戦略的になっているという点があげられます。

この需給バランスの変化によって何がおこっているかというと、VCの側が有り余っている資金の投入先を自らハントしに行く事が増えており(最近のカンファレンスでは起業家の数よりもVCの数が多いことがよくあるみたいです)、実際投資をするにしても、起業家にとってより有利な条件であることが多くなっているのです。つまり売り手市場になっているわけです。

この流れは起業家にとっては大歓迎ですね。

通常、VCから資金を調達する際には、自社の株式との交換になります。企業が成長する課程で数回この資金調達をするのが普通ですが、その都度の価格設定と条件によっては、設立メンバーや社員が知らぬ間に少数株主になり自社のコントロールを失うという事がよくあります。もし、自社のコントロールを第一義に考えるならば、自社株はなるべく売らないほうがいいので、外部からの資金調達は可能な範囲避けるべきです。

一方、VCが提供するのは実は資金だけではありません。VCはいくつものスタートアップを育ててきたわけで、その経験が蓄積されており、会社経営の荒波を乗り越えるのに非常に力強い助けになります。また、自分では持っていない人脈を提供してくれることも往々にしてありますし、人材の補充や弁護士の紹介など会社経営に必要なインフラもサポートしてくれます。自分にはそういう助けが必要だ、という場合には、アドバイザー料としてのプレミアムをどのくらいと考えるかをシビアに検討し、投資の条件を交渉した上で資金調達をするのも良いと思います。但し、ひとことVCといっても、会社によってフォーカスしている業種や事業ステージはかなり異なりますし(セールスピッチには気をつけて!)、同じ会社でもどのパートナーかによって自分の期待しているサポートがどの程度得られるかは異なりますので、選択はくれぐれも慎重にすべきです。

業界・業態、スピード感、或いは自社のカルチャーによって資金の必要額は大幅に異なりますし、またVCが提供するようなメンターの必要性も異なります。重要なのは自社のそういったニーズに対して、どのようなソースからどのようなペース・条件で調達するのがベストか幅広いオプションから選択する事です。今はそれができる大変良い時期なのです。

どんな事に関してもそうですが、定石をたどる前に一歩引いて、本当に必要なのは何か、それを実現する方法にはどのようなものがあるのかを真剣に検討することは、その後に続く長い道のりを後悔なく進むためには極めて重要だと思います。根本的ですが、昨日のイベントはこんなことを考える良いきっかけになりました。

それにしても、そんなに資金が余っているということは、第二のバブルは避けられないのかな…?
流行の業種だけでなく幅広い視点で本当に良いものを創造している企業に投資が回れば良いのですけどね。

Leave a comment

XHTML - You can use:<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>