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CiscoのM&A戦略 – Part 2

どうも。今日は前回に引き続き、CiscoのA&D (Acquisition & Development)の話を。

前回の記事の通り、今後は規模の大きな買収を多くしていくとの戦略変更があったものの、Ciscoは1993年のCrescend Communicationsを皮切りにこれまで約120社もの買収をしてきており、その大半はいわゆるアーリーステージの50人規模のベンチャーです。これはとんでもない数で、この10数年、4-6週間に1社のペースで買収をし続けているということです。もちろん失敗も幾つかありますが、買収によって Ciscoのビジネスはとても健全な成長をし続けており、特に2002年以降に行った買収では買収によって得た社員の90%以上がCiscoで引き続き働いているという他社に比べて驚異的な成功率を誇っています。そのため、Ciscoの買収戦略、そしてその成功法則が注目されてき、様々な企業がモデルとしてきたわけです。

その戦略はR&DならぬA&D (Acquisition & Development)と呼ばれています。

多くの技術系企業は社内にかなり大規模なR&Dを構えそこで新技術や新製品の芽を開発するのが常であり、時として新たな市場に乗り出すため或いは自社の製品をより魅力的にするために、自社のR&Dパイプラインにはない技術をもった企業を買収するというスタイルをとっています。 それに対してCiscoでは自社のR&Dに頼るのではなく、自社の戦略上重要な技術を開発しているいわばR&Dの段階にある企業を買収し、自社に取り込んで育てる、R&Dの外製化をしているのです。それがA&Dたる所以です。

アイディアとしては論理的で分かりやすいのですが、実現しようとすると難しいもので、多くの企業が真似をしようとしてもなかなか上手くいきません。それではなぜCiscoはその戦略をこんなにもよく実践できているのか? これについて良く纏まったものがU.S. Newsの昨年6月の記事にありましたので、M&Aを検討している大企業の方、売却を視野に入れているベンチャーの方(特にCiscoに関連する業種の方)はぜひご参照下さい。ここでは幾つかの点に絞って触れたいと思います。

According to most estimates, about 70 percent of mergers and acquisitions fail to live up to expectations….Cisco is one of the few companies that have found a way to succeed in this risky business….How has Cisco succeeded where so many others have failed?

Simply put, experts say, it has professionalized a process that other companies turn to only on occasion–usually out of either greed or necessity. …The BD group has a diverse staff, ranging from Ph.D.’s in engineering to experts in silicon chips to M.B.A.’s with investment banking experience. Together, they identify potential buys, conduct due diligence on target companies, negotiate with senior execs, and integrate new companies into the greater Cisco whole.

7割のM&Aが失敗に終わると言われるなか、Ciscoが成功している裏には、Ciscoでは他の大多数の企業と違い、買収案件の選定から M&Aの実行そしてその後の統合を行うことを専門にしている、Business Developmentグループが常設されているという点があるとの事。

実は、頻繁にM&Aを行うIT大企業では特にこのようなM&A専門グループが常設されていることは多いのですが、Ciscoのようにそのグループが技術の知識をもつ者からからディールを行うバンキングの知識をもつ者まで様々な人材で構成されているというのは珍しいと思います。通常は後者、処理係であるビジネス・ファイナンス系の人々だけで構成されており、関係部署と協調して行うことが多いです。能動的に買収を計画する際、或いは案件が持ち込まれて受動的に買収を検討する際に、どのような立場の人が牽引になるかというのはそれ自体面白い要素がある部分なので、また後日改めて触れたいと思います。

As successful as Cisco has been in identifying hot new technologies and taking calculated risks in new markets, experts say, the true strength of its mergers-and-acquisitions operation lies elsewhere. Indeed, if there is a secret to Cisco’s success, it is this: Cisco has come to realize that the acquisition of technology really isn’t just about technology. “For us,” says Hooper, “the people are the most strategic asset.” If, after the acquisition, Cisco loses the technologists and product managers who created, say, the Linksys router, then it has lost the second and third generations of the product that existed only in those employees’ heads. That, says Hooper, is where the billion-dollar markets lie. And that is where Cisco’s acquisitions are aimed. “We need the expertise,” he says. “We need the people.”

実はその成功の秘訣は、買収する際にその時点の技術よりも何よりも、人を最も重要な資産としてみている点にあるとの事。買収後に次世代の製品を開発していくことが出来るのはその被買収企業の人材であり、もしその人たちに去られてしまったら何にもならない。本当に価値が現れてくるのは2代目、3代目の製品であり、Ciscoはその時点を見越して買収の判断をしている、という点は非常に重要な部分だと思います。現実には消耗品を買うような発想で買収をする企業も多く、金の卵を産む鶏を殺してしまうケースもあります。

Finding and keeping the right people, though, is a lot more difficult than finding a hot new technology.” In the classic M&A world, if you can’t metric it, don’t trust it,” says Scheinman. But that’s not how Cisco operates. In addition to balance sheets and business models, the BD group scrutinizes would-be acquisitions’ cultures and visions.

だからこそ、Ciscoは被買収企業が組織としてどのような文化やビジョンを持っているか、そしてCiscoとフィットが良いかどうかを追究するとの事。この部分が合わなければ統合は困難ですし、被買収企業の人材がフルに力を発揮したいような環境を作り上げることは難しいということをよく分かっているのだと思います。

“With Cisco, the acquisition is not the end but the beginning,” he says. “The people we’re acquiring have to feel the same way: It’s the beginning of the next generation of that company.”

買収は終わりではなく始まりであり、被買収側もそう感じるようなものでなくては上手くいかないという事。つまり、被買収企業にとっても形を変えた成長戦略であるべきだという事で、これこそ私も常々提唱している点ですが、ベンチャー企業にとっては売却を検討する上で非常に重要なことです。こういう視点をもった相手をぜひ選びたいものです。

長くなりましたが、如何でしょうか。確かに学ぶべき点は数々ありますね。当然ですが、こういったM&Aを実践していくためには本社の文化自体が受け入れに適していることも必要です。Ciscoの場合、「外から来た人」の数がとても多いということもありますが、その人達が後に本社の重役についている場合も多いということも強調しておきたいと思います。内外を分けるような排他的な文化ではこういった形のM&Aによってwin-winを築いていくことは難しいと言わざるを得ません。

一つ補足を。参照した記事はCiscoのA&Dをかなり持上げる視点で書かれています。確かに非常に優れたものだと私も思いますが、ここでは語られていないちょっとした影の部分に焦点を当てた興味深い記事という形で一部の重要人材にベンチャーを立ち上げさせて買い戻すことで報酬を与えているというもの)もありましたので、バランスのためあわせてリンクしておきます。ご興味のある方はぜひこちらもご参照あれ。

今日はこんなとこで。ではまた。

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