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ベンチャーM&Aの「その後」

どうも。あっというまに週末。かなり忙しめの一週間でした。

ここ数週間はHPやCisco、Google等によるM&Aが相次いでますね。大きな企業同士の合併ではマーケットシェアの拡大とコスト削減が重要項目であることが多いため、M&Aのニュースが発表されると、顧客層やチャネルがどの位かぶっているかとか、人員をどれだけ切るかといったことがよく話題となります。一方、大きな企業が戦略的にベンチャーを買収する場合は、かぶるものが殆どなくその人材自体が買収の目的であることが多いため、子会社として独立した形で傘下に入るか、または特定の部署に吸収される形でほぼそのまま引き継がれます。(ベンチャーの規模が大きい場合はプロフェッショナルマネジャーやオペレーション人員、セールス部隊は買収の対象から外れることもあります。)

以前触れましたがベンチャーの所有権が変わることを「身売り」と捉えていると、売る側がなるべく高値で売却を成約すれば「はい、終わり」となると思ってしまうかもしれませんが、戦略的M&Aの場合、形こそ変わりますが、事業は継続しますし、キーとなる人材は通常最低でも2-3年は買収先で働くことになります。

様々な書籍等の情報では、M&Aに至るまでの話、或いは買収側へのハウツーものが多く、売却側にとっての「その後」といった話を聞く機会があまりないので、自分のベンチャーのexitを考えている方もそうでない方も、「その後」がどんなものなのか興味を持っている方もいらっしゃるのではないかと思います。

被買収ベンチャーにとって、自分が望む「その後」を得られるかどうかは、M&A成立に至るまでのプロセスにおうところが大きいものです。売却価格が大きく取り上げられることが多いですが、買収側が自社ベンチャーをどのように取り込み成長させようとしているかという統合計画、そして雇用を含む様々な条件をどれだけ詳細に詰めているか、また相性をどれだけ見極めているかが重要なのです。

ですから、買収の興味を示している企業が複数ある場合には特に、価格だけでなく様々な条件や文化的・人的な相性も含めて総合的に比較検討した上で売却相手を選ぶべきです。現実的には全てが適う相手を見つけることは難しいですので、自社の今後にとって重要なことの優先順位をしっかりと持って交渉に臨むことが必要です。(VC等の投資家の所有割合が多い場合は価格が優先になることが多いので調整には注意が必要です)

プロセスがきちんと行われた場合でも、もちろん企業の所有者が代わり、社員にとっては雇用主が代わるため、不確実性は常に付きまといます。買収企業本体としての方向性が変わることもありますし、買収側で交渉を牽引した人も基本的にはサラリーマンですので自分の企業人としての政治生命も関わってきますから、必ずしも申し伝えていた計画通りには進まず、最悪の場合は消滅状態になることがあります。

ですが、そうした不確実性を認識した上で、その時点で得られる限りの情報を基に納得の行く決断をすれば、その後に何がおきても後悔はしないはずです。この点は就職活動と似ているかもしれません。ついつい自分が評価される選ばれるという立場で臨みがちですが、自分も相手をしっかりと選ばない限り、後で「こんなはずではなかった」ということになりかねません。

というわけでM&Aの決断は簡単ではありませんが、上手くいけば、ベンチャーにとってはこれまで得られなかったリソースや販売力で自社のテクノロジーやサービスがより早くより多くの人の手に渡ることになる可能性がありますし、買収企業にとっては、競争優位になるテクノロジーを得られたり、優秀で勢いのある人材が新たな風を吹き込んでくれることにもなります。

そんな例として捉えられるかなと思うのが、ちょうど2年前にYahooに買収されたFlickrです。直接事情を知りませんので一般情報からの推測に過ぎませんが…。Yahooとの統合や収益モデルなどの不透明さはあるものの、ご存知の通り、Flickrは買収後も非常に人気のあるコミュニティーサービスです。Founder夫婦はその後サンフランシスコに引越してき、その内奥さんのCaterina Fakeは現在Yahooの自社内インキュベーションセンターの位置づけであるBrickhouseという新たなプロジェクトを指揮しています。

日米のYahooの立ち位置にはかなり違いがあるので補足が必要かと思いますが、アメリカでのYahooはここ暫らく低迷が続いていて、 Google等に比べて古臭くて巨体な官僚企業のように言われており、汚名を挽回する様々な取り組みが必死になされています。その一つがこの Brickhouseで、シリコンバレーの本社から離れたサンフランシスコでインターネット起業が盛んなSouth of MarketというエリアにYahooの紫色のロゴもなしに展開されていて、新たな面白い開発プロジェクトをクリエイティブに行うことを目的としています。例えばPipesはここから生まれたものです。

Flickr売却の際のユーザーに向けてのブログエントリーでは「その後」を如何に交渉したかを垣間見ることができます。今月は従業員の誰が給料をもらえるかくじ引きしなくて良くなる等のベンチャーならではの厳しい財政状態から開放されるという事情も冗談交じりに伝えつつ、Flickrは今後も同じスタッフが率いてビジョンを実現していくしカルチャーも全く変えないということを最重条件としたということが強調されています。一部を引用すると、

What is going to happen to Flickr?
Flickr will be continuing on the path it’s on — to Flickr 1.0 and beyond. We’ll be working with a bunch of people that Totally Get Flickr and want to preserve the community and the flavor of what is here. We’re going to grow and change, but we’re in it for the long haul, with the same management and same team.

You’re not going to become a bunch of suits?
No, no, no! The precious DNA we’ve got is on side and revving up for building Flickr. Having the team building out the team’s vision for Flickr has been stressed as our number one priority, and keeping us around is crucial for preserving the Flickrness that is Flickr. They’re not going to replace any of us with suits, nor induce us to wear them.

とても良いメッセージだと思いますのでぜひ原文をご参照ください。実際、Flickrには他社もオファーをしていたようで、例えばGoogleの場合は買収後のPicassaとの位置づけに関する計画で合意に至らなかったそうです。

そして「その後」としてYahooはFlickrをYahooカラーに染めるのではなく、Web2.0先駆者の英知を生かそうと試みているようですし、Caterina Fakeも大企業のやり方の良い部分も認めた上で、自分の得意とするベンチャーの良さを引き入れて、双方を兼ね備えた先進的な企業を創る活動を楽しんでいるようです。今日のCNETに掲載されていたCaterina Fakeのインタビュー記事を引用します。

CNET: You used to be part of a small organization, and now you’re in a huge company. How much harder does that make it to achieve individual goals?

Fake: Fortunately, my job is largely about how to make what works in start-ups happen at a large company. Before Yahoo, I’d mostly worked at companies smaller than 150 people. I was really very start-uppy: small teams, rapid development, all those things you take for granted at start-ups. There are tons of amazing ideas in big companies, and no innovation deficit. But the obstacle to getting things built is mostly process. There is one kind of process developed for building and maintaining large-scale products, like Yahoo Mail. And the development processes for that are very different from what it takes to build a new product in a short amount of time. Brickhouse, my latest project, was a process innovation, a way of getting products built fast, a way to encourage risk-taking. Organizational and process innovation has been what I’ve been working on since coming to Yahoo.

CNET: But doesn’t bureaucracy get in the way of nimbleness?
Fake: Exactly. If you have 200 million mail clients, you need structure, reliability, uptime and dependability. Those things are very different from launch fast, take risks and embrace failure. Bureaucracy has its purpose, which is to keep the trains running on time. But building in small teams and launching early and often, bugs and all, is a very different proposition.

CNET: So a big company like Yahoo needs to have both approaches? Steady, keep the trains running, and nimble, startup-like teams? Is that a model you think big technology companies should follow?
Fake: Exactly. You have to have the supertanker and the speedboats.

こうした人材起用法は買収側には学ぶべきところが大きいと思います。ベンチャーにとっては買収による新たな契約期間中にそこでしか出来ないことを存分に追究し吸収し、また時期が来れば新たな会社を立ち上げるというのも良い道筋だと思います。繰り返しますが、その為には何ができそうかを事前に充分に検討することが大切で、売却を考慮する際にはそういった検討をできる状況を確保できる時期的財政的な余裕を持ったうえで行うことが肝心です。

今日はこんなところで。皆さん良い週末を。

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