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資産売却2.0? – Odeo

前回「身売り」「売却」の話を書きましたが、今日はその路線で昨日あったちょっと気になる話を。

ポッドキャスティングのポータルであるOdeoが売りに出された、というもの。OdeoはBloggerの創業者であるEvan Williamsの起こしたベンチャーで、2005年2月に発足したものの、その後厳しい競争に直面し様々な失敗もあり、芳しくなくなっていました。そこで2006年の10月には、投資家から全ての自社株を買い戻しコントロールを取り戻す、という珍しい形で立て直しを図ることを決定。その際に、Odeoの従業員と共に新会社Obvious Corpを設立し、この新会社がOdeoと新たに取り組んでいたtwitterの両方を含む、Odeo, Inc. の全資産を買うという形で行いました。

その後、Odeo事業に関しては事態が好転せず、一方でもう1つの事業、ゆるい感じのSNSサービスのtwitterが軌道に乗ってきている為、こちらに更に注力し、且つObvious Corpとして新たな方向に成長して行くために、Odeoを手放す事にした、ということです。

ですので、今回売ろうとしているのは会社全体やビジネスやチームではなく、ウェブサイトやプラットフォーム、そしてブランドを含む資産(プロパティ)のみです。

そして興味深い事に、投資銀行や類似のサービスを使わずに行いたいという事、そしてこういった資産のみの場合でネガティブなFire-saleの形ではなく公正に売買をするのに適するマーケットが存在しないという事から、試験的にObvious CorpのブログそしてEvan自身のブログを介して幅広くバイヤーを募るという手段を講じています。

この二つのブログエントリーから主張のポイントを幾つか意訳して以下引用してみます。

通常、自ら「売ります」と言うと、事業が上手くいっていないとか何かしら欠陥がある価値の無いものみたいに思われるけれども、それはおかしいのではないか。家や土地を売りに出すときには何らかの値で「売りますリスト」に載せる事は全く通常の事で、わらにもすがるような思いが見え見えだとか、やり方がアマチュアっぽいとか思われることはない。

このような仕組みがあるのは、買いたい人が一件一件訪ね歩くというのは極めて非効率的だし、誰が売る意思があるかを明示することができるからだ。売る決断は必ずしもその資産を反映するわけではなく、個人的或いはビジネス上の必要性から起因していることが多い。

Odeoの価値は方向性を変えた現在の我々によりも他の企業にとっての方が大きいように思われるため、この度、Odeoのための新しいお家を見つけることにした。

幾つかの企業と話し合いはしているけれども、投資銀行等の類を関与させずに、最も迅速により多くの人に周知するために、インターネットの特色を活かしてこのような方法を取った。この売却の意思を可能な限り効率的に広めないというのは、(インターネット企業である我々にとっては特に)おかしいしもったいないと思ったからだ。

Odeoは開発やサポートが出来なくなっているが、財政的に窮地という訳ではないので(AdSenseでカバーできている)、これにより魅力的なオファーを得られなければ引き続き自社で運営を続けるつもりだ。

ここで投げかけられた疑問は中々面白いですね。M&Aアドバイザリーとして、業界の有り様を結構考えさせられます。

会社や部署を売る場合には、手前味噌ではありますが、投資銀行やM&Aアドバイザリーを雇うのが得策だと思います。というのも、この場合は効果の問題であって効率性を追究するだけでは満足の行く結果は得られないからです。もちろんこの中にもサービス内容やモチベーション、能力の差は大きくあって、特にファイナンシャルM&Aをサポートする(大体の投資銀行はこちらです)のかストラテジックM&Aをサポートするかは、ベンチャーにとってはかなりの違いがありますので、よく吟味して選ばれると良いと思います。

但し、これが建物、機材やオフィス家具等の単純に値のつく資産だけではなく、ウェブサイトやプラットフォーム、そしてブランドといったものを含む資産となると、確かに難しい。ファイナンシャル、ストラテジックいずれの方法論にもしっくり来ないこともあり、通常のサービス料に見合った付加価値を提供する事は難しいと思います。恐らくこのことが、投資銀行回避という方法の背景にあるのでしょう。(もしかしたら単に過去に嫌な経験をしてコバンザメ位にしか思っていないということも考えられますが)

また、先日も挙げたようにeBayでのオークションや、類似の「ビジネス売りますリスト」のような形のサイト等(例えばこれ)の試みは幾つかあるにはあるのですが、どうしてもネガティブで怪しげな雰囲気が付きまといます。従来からM&Aのブローカーといわれる人々は存在しているのですが(大体はコンサルティングの一環などとしてサイドで行われるものです)、こちらもピンキリで、基本的には人脈をよりどころにしている商売なため、広く買い手を捜すのには不向きです。

今回の場合、Odeoの資産の活用方法は色々と考えられ、どういった会社が買い手として興味があるかを想定するのは難しいですので、彼らが実施したように幅広く公募するというのが、最適な買い手に出会う最も確率の高い方法といえるかもしれません。このようにブログのリーダーも多くネタとしても面白い場合は、かなりの人に話は行き渡る可能性がありますね。相当な反応は得られるのではないかと思います。

ただ、この際問題なのは、たくさんの問い合わせ等がCEOに殺到した場合、相手の査定、入札のタイミングや手法、個別交渉等をどのように管理するのかということ。彼らの期待するところはある程度の値段と何らかのちゃんとした形でOdeoが世に残るということのようですから、プロセスをきちんと切り盛りしないと元も子もありません。Obivious Corpの経営は通常通り行う必要がある訳ですから、この担当をさせるだけでも誰か雇った方が良いと思うのですが…

ちなみに値段に関してですが、自社株を買戻したときの額が$5M(何%分なのかな?どなたかご存知ですか)といわれています。資産だけでこれに見合う価値を見出す買い手が出てくるかは、これからのお楽しみです。Evan Williamsが株を買取ったときには、VCとエンジェルに投資全額を返し、共同創業者など一般投資家にはちょっとプラスがつくという形で行ったそうです。これにはかなり潔さを感じました。自分のやりたいことは失態を含めて自分で責任を取る、というスタンスもあるでしょうし、また、シリアルアントレプレナーとして、今後も投資家と信頼に基づく良好な関係を保って行くことが必要と感じているというのもあるのでしょう。資金の面でもビギナー起業家には真似の出来ない事ですが、こうした長期的で堅実な視点は見習いたいもいのですね。

ではまた。

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